

「岡崎真奈美展 布伝説」の3日目。良い布はまだたくさんございます。明日も岡崎真奈美さんが12:30~17:00まで在廊します。
もの選びは、その「もの」に力(美しさ)があれば、肩書や背景など必要ないように思いますが、一方でそれは何故そこにあって、どう選ばれて辿り着いたのかという文脈を知りたいとも思います。岡崎さんの選ぶ布は、東南アジア、中国、環太平洋地域の民族布が中心ですが、そこからどういう眼と経験を通して選ばれてきたのか、その思いはどこにあるのか、その興味から今回の展示会が成立しているのも事実です。今展の案内状に合わせてお送りした岡崎真奈美さんの言葉も知って頂ければと思います。
以下、岡崎真奈美さんの言葉
「布伝説」
「布」は身近にある自然の恵みを材料にして人間が作り出す道具のひとつです。それは身に着け身を守り、飾り、着用者がどの社会に所属しているのかを示す役割も持っています。土地により獣の毛、蚕の吐き出す糸、植物の樹皮や繊維を撚ったり績んだりして糸を作り、その糸をたてよこ交差させることで糸の線が面になり布になります。
布つくりは世界中を見渡しても古代から女性の仕事として母から娘へと継承されてきました。それは食事の準備と同じ家族のための衣服の用意です。素材を整え糸から衣になるまでの工程と手間は、食べるものを調達することよりも時間を必要としたかもしれません。
布つくりが女性の手で行われてきた理由としては、作業に特に危険な道具はなく程よく安全で、家で出来る糸紡ぎ、機織りは途中で比較的簡単に手を止め、また続けることも可能です。それは出産や育児のあいだにも仕事を両立できることを意味します。
経糸に緯糸が打ち込まれ細い糸が時間の経過とともに一段一段と布に仕上がっていく変化の状態は、妊娠から出産までの新しい命の誕生と引き合わせて語られることもあります。また“紡ぐ”織る”の表現には紡がれ織りなされる人生の道のりが、“結ぶ”“繋ぐ”などの他の糸編の字も人と人の関係を取り持つ言葉としてよく用いられます。
教理を広めること、特に宗教を一般的に広め伝えることを意味する「布教」という言葉にも布の字が当てられています。女性たちの布つくりは、畑仕事、家事や子育てなどの日々の生活の中で行われ、一枚の布、一枚の衣が形になるまでには途方もない時間がかかり、そこには女性たちの家族を思う気持ちや願い祈りが込められています。素晴らしい伝統染織を保有しながらも文字を持たない民族の記憶や伝説は模様になり語り継がれてきたのです。
織り、染め、刺繍などのあらゆる染織技術を持ち、それらを組み合わせ独自の民族衣装を発展させてきた中国少数民族、一枚の布をからだに巻き付け着用することを衣の文化とする大陸東南アジアと島嶼国家インドネシアなど、外部や時代の影響を受けながらも守られてきた民族の布をご紹介します。
民族の、家族の、女性たちの「布伝説」。布に触れながら布につながるすべての感覚をひろげて、想像の階段を皆さんと一緒に“うつわノート”で駆けのぼれることを楽しみにしています。
ティモールテキスタイル
写真
岡崎真奈美展 布伝説
岡崎真奈美プロフィール
